イトラコナゾール製造時、リルマザホン塩酸塩が混入していた事象~品質管理の目線より~
皆さんお久しぶりです。
最近社内でもお昼休みの時に小林化工さんで爪水虫の錠剤に、睡眠導入剤が混入していて、しかもその含まれる量が通常製剤の二倍ほどだったんだって~~っていう話を見受けるようになりました。
ジェネリック製薬会社の品質管理部の端くれである私は、単純に気になりました。
「製造時の混入に品質試験(出荷試験・年次モニタリング*1)では気づけなかったのか?」と。
Twitterに、ポロポロとつぶやきを漏らしていましたが、いろいろな記事を見て、品質管理側のコメントが載っている記事を探しました。
「同社は当初、同錠剤(イトラコナゾール)の品質試験の記録を確認したところ、本来にはない成分の反応を検出していたが、「通常では気にならない程度だった」と説明していた。」
ごめんなさい、どの記事だったか忘れましたが上記の本文がありました。
まったく業界の畑違いの方からしたら「見た目で品質がわからないのにそんな気にならない程度・・・って!!!死んだ人もいるんだぞ!!!」と思うと思います。私も分野違いならそう思う可能性だってあると思います。
じゃあ実際どのようなことをやっているのかご説明して、且つこれらの弱点を教えたいな、と思った次第です。
薬の品質管理について
まず、薬という特性上、見た目から品質の具合がわかるなんて極々稀です。
だから理化学試験を用いることで品質管理を実施しているというものです。おそらく食品、化粧品、化学系などはそういうものだと思います。
皆さんも分野によっては使ったことありますよね!!高速液体クロマトグラフィー
!!!(以下、LC もしくはHPLC)
主としてHPLCを使った試験法がとても多いこと多いこと。
元々前の会社で派遣していたころはLC-MS(高速液体クロマトグラフィーと質量分析法)をよく触っていたので、HPLCはだいすきです!えへへ
じゃあ品質試験ではどういう項目をしているの?という疑問がわくと思います。
試験項目について
おおよそ、性状(外観)試験、確認試験、純度試験、製剤均一性試験、溶出試験、定量法を実施しています。実際錠剤の剤形によって追加される項目もあったりします。(液のモノであればpHを計測したり、座薬だったら融点を測定したり・・・)
この漢字の羅列、正直意味わからないですよね。知らない分野からしたら。
これも一つ一つ読み解いていきます。もしわかりにくかったら、コメントくださいね。
1.性状(外観)試験
これは漢字で見てそれだわ。ってなりますけれど、
「日本薬局方」(以下JP)という薬についていろいろなことが書かれたとても強い本があります。(この認識で大丈夫かと思います。これを守ってね、とかいろいろ書かれています。)そろそろ第18版が出るころだと思います。
JPの仕組みはさておき、この中には性状について以下の記載があります。
「固形の医薬品はその1 gを白紙上又は白紙上に置いた時計皿 にとり,観察する.液状の医薬品は内径15 mmの無色の試 験管に入れ,白色の背景を用い,液層を30 mmとして観察 する.液状の医薬品の澄明性を試験するには,黒色又は白色 の背景を用い,前記の方法を準用する.液状の医薬品の蛍光 を観察するには,黒色の背景を用い,白色の背景は用いない.(JP17 通則 28)」
要は、1gとって、各錠剤の決められた規格に適合しているかどうかを見た目で見る試験ですね。
規格は「本品は白色の素錠である。」や「本品は微黄白色のフィルムコーティング錠である。」など様々です。
見るだけじゃん!!(笑) そう思われるかもしれませんが、確かに大体適合しますが、例えばですよ、製造時のミスによって、異物が混入していた。包装時のミスによってシートが完全にくっついていなかった、等そういうところも見てあげなければいけません。
何より薬剤師に届き、患者さんに届くから。彼らに安心して使ってほしいから。
そういう試験でございます。
2.確認試験
何を確認するんじゃい! そうですね。そう思いますよね。
あくまでこの試験は定性的にお薬の成分がはいっていますよねということを証明する試験です。
様々な試験があります。炎色反応、定性試験、UVスペクトル、フォトダイオードアレイ、薄層クロマトグラフィー(以下、TLC)、などたくさんの形態があります。各製剤によってきめられています。(複数種あることも・・・)
例えば炎色反応とかですと、ある薬Aというものはこの試薬を使うとカルシウム塩を作ります。
この液をガスバーナーで燃やすと橙赤色の炎になる、というわけです。(みんなも高校生の時に覚えたよね!!)
上記に述べた年次モニタリングなのですが、規定された温度湿度の中に一定期間置いたものを各タイムポイントで測定を実施するものです。(1箇月、3箇月・・・・使用期限月)
この確認試験と後に述べる製剤均一性試験はどのタイムポイントにおいても実施するものではなく、試験開始時と使用期限月に実施することが多いです。
3.純度試験
品質管理のみんな、きっと一番嫌いだよね。純度試験。だって難しいもん。私も苦手意識があるよ。誰か教えてくれ
試験法は大体HPLC、稀に紫外可視分光光度光度計(以下UV)、稀にTLC
HPLCの中でも特に解析が大変になりがちになります。
純度試験はお薬の成分やプラセボの成分をめちゃめちゃ濃い溶液を作っているため、クロマトグラムがめちゃくちゃ汚いです。
所謂不純物・類縁物質を見る試験ですね。
例えばある薬Aは年次モニタリングにおいて徐々に加水分解していくから、加水分解した薬Aのピークが別途規格に設定されていたりとか・・・
調整後すぐにHPLCで測定してあげないと類縁物質が経時的に増加ないしは減少していくお薬もあり、所謂「用時調製」という概念が存在しているのもこの試験。
この試験法での調製は何分かかって~、次HPLCで打ち出すのは何時何分だから、この時間から調製開始して~~ととても緻密な試験デザインが要求されます。
この試験が外れるとどうなるか?という話ですが、特定されている不純物が例えば発がん性がある場合 不適合が社内で調査した結果ガチの場合は回収をすることとなります。
上記に記載した加水分解した薬Aのピークが・・・という話も不適合になってしまった場合、後述する定量法でも規格が外れたりすることがあります。
大体ベーシックな純度試験はめちめち濃い試料溶液を100倍希釈したものを標準溶液として、
試料溶液に出たピーク面積/標準溶液のピーク面積=類縁物質含量(%)としていることが大多数です。
特定されているピークに対しての規格、Totalの類縁物質の規格が設定されているので
規格を読むと「??????????」ってなることがあります。
え、見たい?仕方ないなあ~~。
「試料溶液のアムロジピンに対する相対保持時間約0.45のピーク面積は,標準溶液のアムロジピンのピーク面積より大きくなく,相対保持時間約4.5のピーク面積は,標準溶液のアムロジピンのピーク面積の1.8倍より大きくなく,相対保持時間約0.16及び上記以外のピークの面積は,標準溶液のアムロジピンのピーク面積の2/5より大きくない.また,試料溶液のアムロジピン及びアムロジピンに対する相対保持時間約0.16以外のピークの合計面積は,標準溶液のアムロジピンのピーク面積の2.8倍より大きくない.ただし,アムロジピンに対する相対保持時間約0.45及び約4.5のピーク面積は,自動積分法で求めた面積にそれぞれ感度係数2.0及び1.9を乗じた値とする.」(JP アムロジピン口腔内崩壊錠より)
よく読まないとわからん、もっと見やすい書き方せんかい!って思いますよね。でもこれJPでそうかけって言われてるみたいですね。つらい。どうしたら純度得意になれるかなあ~~と思う日々です。
4.製剤均一性試験
後述する定量法のように各製剤の含量を測定します。それらのばらつき度合いを見る試験です。そりゃあ、1個だけお薬全然入ってませんでした。なんてことになったら大変困りますよね。
大体30個以上取った後、そのうち10個について1つずつ試験を実施します。
だからロット数が増えたらわんわん泣きます。終わらないから。
判定値という概念があり、JPをみたら詳細が書かれていますが、それが15%以下であると合格となります。15%って意外とでけえやんって思うじゃないですか
こればらつきだけじゃなくて係数をなんやかんや乗じた値になるので、所謂相対標準偏差とは全く別のものです。
錠剤の平均含量について3パターン場合分けされており、それらに10錠である場合の判定係数×標準偏差となっている。平均含量が3パターン別れているのでそれらの値を足すため15%という規格みたいです。
大体、この錠剤やべーだろ!!みたいな製剤均一性試験でも6%ぐらいまでしかみたことないので、大体2~4%です。安心してください。
この試験も、確認試験と同様です。常にやる試験ではないです。使用開始時、使用期限月にやることが多いですね。
5.溶出試験
溶出試験は読んで字のごとくですが、溶出試験器というものに1ロットにつき基本6錠入れて、溶かします。規定された時間にシリンジで液を持ってきてその溶出率というものを用いて判定していること(HPLCや、UVを使って判定)が多いです。品質試験では。
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ジェネリックは基本的に先発品の溶出試験と生物学的同等性というものを見て承認をもらっているらしいので、それらは規定時間とかはなくて、ものによって各規程時間において溶出率をグラフ化しているものがあります。
錠剤を入れてから1分、3分、・・・みたいなね。そのグラフが同等だからジェネリックも先発品も似たような挙動だから安心だね。承認!となるわけです。溶出プロファイルっていうらしいですが。私はプロファイルは専門じゃないのでわかりません。ごめんなさい。
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これは何を模しているのかと言いますと、人体に入った際の溶け出し方を見る試験でもあります。
たとえば腸溶錠というものがあります。漢字の通りですが、腸で溶ける薬ですよね。
溶出試験においては腸溶錠は基本的に2回実施することとなります。
まず溶かす溶媒(試験液といいます。)をpH1.2として溶出試験を実施します。
→これは胃の中で溶出してもらったら困るから、pH1.2では溶出しないということを証明しなければならないのです。
次に試験液をpH6.8にして溶出試験を実施します。
→次は腸の中を想定しているのでここでドバドバ溶出してもらったら、きちんと腸溶錠だよね。ということが証明できるわけです。
品質試験においてはおおよそ検討段階で溶出プロファイルは実施していることから、100%になるぐらいの値で規定時間が設定されています。
溶出試験が不適合確定になったこととか一度も経験ないです。
基本入ります。なぜなら、6個で1つでも規格外が出た場合、さらにもう6個について溶出試験を実施10/12個適合すれば、合格だからです。
通称「さらにもう6個について溶出試験」のことを2ndと呼ぶことがありますが、大体入ります。そもそも2ndに行ったことないです。
規格も「規定時間における溶出率が80%以上」とかなのでね。
多分品質試験で一番肉体労働がちになります。夏はあせだくになってしまいます。
6.定量法
HPLC法やUV法で実施することがほとんどです。
製剤均一性、溶出、定量と書いてますが、さらっと「判定します」って書いていたけどここに書いててめっちゃ申し訳ないんですけど。何をもって判定するかといいますと
標準溶液を試料溶液と同様に調製しており、標準溶液に対して何%なのか?という相対的な測定をしております。
検量線は引かないのです。
で、定量法は何をしているのかというと、製剤は、含量100%を目標として作られているはずです。なので、それがきちんと100%であることを証明してあげます。
大体規格は95.0%~105.0%がほとんどです。錠剤のばらつき、試験法がイケてねえ。などで規格が広いものもありますが。おそらくこの規格なら人体に影響はしない範囲なのでしょうね。
そして一番規格外(OOS:Out of Specification)が起きやすい試験でもあります。
もちろん年次モニタリングで試験開始時から回帰直線を引いておりますが、場所によっては、自身の測定した定量値によって、使用期限月までに規格外が起きてしまう場合、トレンド異常(OOT:Out of Trend)となり、ラボエラーではないか、調査を実施していると思います。(私の会社では絶対そう)
ま~~定量法は頻発しますね。大体ラボエラーで片付くので、品質への影響度って少ないものですが。ガチの規格外は私も1,2度しか見たことありません。
どうしても加水分解とかして含量落ちちゃうものとかあるのでね・・・。
これが規格外になるということは決められた含量入れれていないということで、適切な薬効が得られないようなことにもなりかねません。
なので大体回収します。
試験法から見たイトラコナゾール
私はこのイトラコナゾールという製剤、全く知らないし、試験項目だって知らなかったので、最初見た時は
「純度試験でわからんかったの?」って思いました。
以前そういう事象が発生したという話を聞いたことがありました。
ある製剤Bの出荷試験における純度試験においていつも得られていないクロマトグラムのピークが得られた。OOSとして調査、ピークをスペクトルを測定し、物質を特定したところCであった。
Cは製剤Bの前に製造されていた製剤であったとのこと
的なやつ。今回の事象と割と似ていると思うのです。原因は違えど。
クロマトでわかると思ったんです。
でも小林化工さんのイトラコナゾールのインタビューフォーム*2を見に行くとこうかかれていました。
(以下はイトラコナゾール錠100「MEEK」)の試験結果。
純度試験、ないですよね。製造時の混入だとかって純度試験で一番わかるだろうと思っていたのですが、盲点でした。
一部の含量には純度試験ありました。
この残留溶媒試験法では、製造時に使われた溶媒だとか人体に影響のある溶媒について実施するものであって、イトラコナゾール自体の純度試験ではなかったです。
純度試験は明確な理由がある場合にはその試験を省略することができます。
おそらくこの製剤は純度がない。あっても残留溶媒だけ。
じゃあ品質試験で見分けるには性状、溶出、定量だけではないか。ということになりますよね。
JPにはイトラコナゾールの原薬(お薬のもと。)の試験法はあったのですが、製剤は載っていなかった。では局外規*3はどうか?と思ってみてみたら溶出は載っていた。(ただカプセルでしたけど)
その情報から見る限り、溶出はおそらくUVを用いて測定する試験法です。
そしてこの情報。
インタビューフォームはなんでものってる!すごい!
定量は液クロの内標法(以下IS)であると書かれていました。(私の知る限り局外規にも載っていなかったので、それなら社内法なのでしょうね。)
なので、実質定量法でしかリルマザホン塩酸塩の混入には気づけなかったという推測を立てました。
IS法であるということなら、クロマトグラムとしてはピークが2本でるはずです。
そして初めに戻ります。
「通常では気にならない程度だった」
未知ピークによるOOTは明確な基準が定められているはずです。気にならないということは、おそらくピークとして認められなかった、もしくは認めても許容範囲内であったのではないかと思います。
イトラコナゾール、リルマザホン、化学的性質は全く違うため、試験法だって違います。
各製剤には200-400nmの吸光度を見た際この波長で吸収が最も高くて・・・というようなもの(スペクトル)があって、おそらくそれらの適当な強さにおける波長をHPLCにおいて選択しているはずです。
今回の混入に気づけなかったのはイトラコナゾール・リルマザホンのスペクトルが全く違うものだったからイトラコナゾールの定量法では見つけきれなかったのではないのかな。と思います。
もう少しいい言い方ないかな、263nmにおいてはリルマザホンはピークとして検出しにくい波長だった? うーん難しい。
もう1つはそもそもイトラコナゾールとリルマザホンで溶解度が違うため、イトラコナゾールに適切な溶媒で試験法が設定されておりリルマザホンは溶けにくかった。(若しくは溶けていなかった)そもそも溶けていないから検出しにくい。というパターンもあるかなあ。と推測しました。
品質試験における弱点
上記に述べた推測からですが、基本的に各製剤において試験法が決められております。すべての薬について汎用的に通じる試験法なんて存在しません。似た試験法はあれど。それは化学的性質が違うためです。
薬における品質試験は製剤特異性が高いため、製造時の混入などには気づきにくいものが多いです。
上述した純度試験で別物質が検出された件、あれも「たまたまBとCのスペクトルがかぶっていたから検出できた」に過ぎない現象なのではないかと思います。
対策及び是正
今日本薬局方や局外規において決められている試験法、においてもすべてにおいて、この試験法イケてるよね!というバリデーションを実施しております。だから変えようということになるのはそもそも無理だと思っています。
そのため、品質管理からの是正は正直できないと思います。
本当にそのイトラコナゾールのクロマトグラムを見たわけではないですけれど。
未知ピークとして認定する管理幅が、他の業者と同様なのか、緩いのか。もし緩いならば、管理幅を狭めるとか。。。
もし他のロットを同日に実施している際、小さくてもリルマザホンが検出されるロットだけピークが出たはず。だからリルマザホンのピークがあるもの、ないもの。とクロマトグラムが2つに分かれるからそういう事象もOOTとして取り扱うべき。だとかそういう是正しか考えきれないです。
全て推測に成り立っているからいろいろ崩れる可能性がありますが。
根本は製造部がやってしまったことのため、製造部できちんと是正されなければいけないのですけれどね。
製造部できちんと医薬品を製造するにあたっての管理ができていれば、品質試験だって何も起きませんもの。
なので、製造部できちんと是正、予防措置をしてまた医薬品の品質を上げていってほしいです。
最後すごい製造部がやれよ!!って丸投げにした気がしますけど、
医薬品の品質試験でわかることは本当に限られています。
しかし各試験項目は医薬品の品質として網羅されています。
だからこそ製造部で対策すべきものなのです。
結局何が言いたいの?
品質管理はどうなってるんだ!!って思わないでほしいなというのが一番大きいです。
なので、この記事を読んで少しでもその意見が和らいでくれたら、私もうれしい。
決して杜撰ではないはずなのです。薬の品質管理なんだから。どの業界よりも厳しい管理を求められているはずだから。
単純に弱点を突かれただけのような事象な気がするのです。(イトラコナゾールとリルマザホンの化学的性質が似通っていなかった)
健康被害が出たことに対して私も考えさせられました。
患者はそれを信頼して飲むしかないのだから。信頼した結果裏切られ、亡くなってしまった。その事実に胸が痛みます。
ただ薬の品質管理はこういう感じでやっていて、こういう弱点があるんだよというのをわかってほしいのが私の願いです。
本日はこれにて。(過去一記事が長くてごめんね)